頭の中のごみそうじです
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床なのか、地面なのか、ともかく白い、硬くもやわらかくもない平面の上に私はいます。
壁はありません。空も見えません。
無音の中でぱちぱちと火が爆ぜています。
ほんものの熱さを頬に感じながら、私はひたすら、手元にあるものをそこにくべ続けます。
無表情です。
私はひとりです。ただ、それを眺めている子どもがいます。きょとんとした顔で、黙って、私をじっと見ています。
髪の短い、骨の太い、勝気そうで、臆病そうな、女の子です。
「そこにあると、まるで手にしているように思うし、そしてふさわしいように錯覚してしまうでしょう」
私はその子の目の前で、次々にものを燃していきます。
写真。手紙。USB。CD。本。スカート。ブラウス。化粧品。パンプス。iPhone。
「何ひとつ後悔はしていないんだよ。やっぱりなって納得するだけ。わかるでしょう」
子どもは唇を噛み、すべては灰になり、あとは私の身一つです。
「水の中がいい。そう思うでしょう」
凪いだ波の音が火を掻き消し、素足を浸してゆきます。
陽にぬるまった夏の澄んだ淡水です。
透明の板で隔たった子どもの前で、私はそれに呑まれます。
大仰なのやカラフルなのが目立つなかで、いちばん地味な部類に入るそれがわたしの目を引きました。すぐに説明文とともに写真を撮って、送りました。「星くずでできた刀があるよ」と。返信はめずらしくすぐに来ました。
三日後、わたしはまた同じビルの6階にいました。彼はずいぶんなあいだ例の展示の前で立ち止まって、ためつすがめつしていました。見た目はどうということのない鉄なのです。言われてみれば刃の表面が、水たまりにこぼれたガソリンのように細かく波打っているのがわかる程度で。それでも彼はしばらくじっとそこから動きませんでした。また頭の内側で宇宙に行っている、とわたしはあきらめて、他の展示と来館者をのんびりながめることにしました。
レストランのホットケーキは、思い浮かべる通りのホットケーキの味がしました。マーガリンとメープルシロップ。わたしがつくるときは必ずバターとはちみつにします。彼はとうぜん、違いをさして気にしていません。そういえば宇宙食を売っているお店が近くにあるよ、と言うと、彼はぱっと顔をあげました。昔飼っていた犬よりわかりやすい、と苦笑いがこみあげます。
ロビーの隅、エスカレーターにかくれるようにして、タイムカプセルがありました。いちばん長いものは、次に開かれるのが埋めた年の5000年後。ろくせんきゅうひゃくななじゅうねん。彼はていねいにたしかめるように何度もゆっくりつぶやきました。
いつか遠くない先に、とても現実的な理由で、この人は東京に帰るだろう、この人が帰るのは東京だろう、わたしはその確信のもと、毎日返ってこないメールを送り、噛み合わない話をします。どちらのためにもならない日々を、せっせとつなげて暮らすのです。
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