僕に欠けているものはみんなおまえが持って行ったせいだ。そう思わせてくれたことにお礼を言いたい。あなたが居なかったらあたしは「嫌い」という感情の向けどころさえ持たないままに冷たくなっていっただろう。これはきみがわたしに言ったことだよ。あんたがそれを持って行ったせいで俺には備わらなかったし、逆にあんたが得るはずだった分のこれは俺がもらったんだから、どちらも仕方がないんだよ。You told me that again and again.
自分をなぐさめ相手を責めるための、あるいはその逆の、語彙の乏しい子どものつたないばかな思いつき。それでもそれに救われた。「ピカソの生まれ変わり」ですべてを納得した、あの絵に長けた父殺しの男のように。飾りにすらならないこの頭は、好ましい理由を好ましい他人がくれればそれで必要十分なつくりをしているみたい。誰にでもあてはまるわけじゃない、自分のために誂えられたようなりくつだからなおさらだった。
全く憶えていない、絶対に忘れない光景がある。幸福はその内側に在った。夢はその外側に置いた。彼はそこにいた。彼女はそこにいた。そうでない時間を一日たりとも持たなかった。その所為で、喪うことがかなわない。手にする望みが絶たれた今も、この先も。
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