きみは僕が居なくなったらどうするだろう。
逆に、きみが居なくなった後のことを考えてみる。
自分なんか、居ても居なくても変わらないと思う?
なら、意外とお目出度く出来たあたまだね。
そうだな、もちろん感情は一色じゃないから、その報せは僕の気持ちもマーブル模様に波立てるだろう。
まずは、厄介払いが出来た安堵。これが第一を占めるだろう。
力になってあげられなかった罪悪感、そういうまっとうな感情を浮かばせることに成功した満足感めいたものも表面にあらわれるだろうね。
もちろんさびしくもあるだろう。きみと居るときほどクリアに優越感をおぼえられることはなかったからね。
でもそんな快楽はもちろん間違っているから、やっぱり君が去るのは僕にとっては望ましいことのような気がするな。僕にとってはだけど。
僕の知らないだれかにとってはきみは欠点なく秀でた嫌味な存在でもあるんだろう。それもたやすく想像出来るよ。
僕の君に対する認識には何の影響もないことだけど。
ねえ、見下すことって心地いいでしょう?
心底見下している相手が縋るように自分だけを慕ってくるのって、えも言われない気持ちになるでしょう?
僕らみたいな人間には。
僕の、こういう、嫌悪している相手にわざわざ饒舌に構い立てて苦しめる、
その行為が僕の期待通りに相手に抜群の効果を発揮する、
この屈折したコミュニケーションに浸らずには居られない、
反吐が出そうな僕の趣味にきみが早く耐えきれなくなってくれればいいのに。
僕が無視したい部分にきみみたいな人間が呼応するから、
僕みたいな人間がまっとうになりきれずにのさばってしまうんだよ。
僕にはたくさんの、きみよりずっとたくさんの、拠るべきまともなつながりが築かれているのに。
ところで僕は心中は信じないんだ。
あれはふたつの自殺かふたつの殺人、あるいはひとつの自殺とひとつの殺人。そのいずれかだよ。
二人セットではありえない。だって、そうだろう。
カストリってどんな味がしたんだろうね。
一昨日いっしょに飲んだ友達が、ブランデーをスピリタスで割って飲むんだと言っていたよ。僕らもそれにする?
そしてきみは素晴らしく体裁のととのった文章を、上品このうえない筆致で書くんだ。
僕はいつものみみずがのたうったような文字で、いつものような僕らしいことを記しておくよ。
失敗はごめんだから、それだけはきちんとお願いしておくね。頼んだよ。
醒めないフツカヨイ、そう詰ったあいつは滅茶苦茶でも生き抜いた。何よりだ。僕はあいつが好きだった。
じゃあね、あとはお好きなように。おやすみ、また目がさめればね。
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