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may be May

頭の中のごみそうじです

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Desire

 彼は血縁よりも召使が多い家に、絹のように白い肌で覆われて生まれた。彼は人々に慕われる立派な夫婦に待望された長男だった。

 その家の召使にはさまざまな出自の者が居た。彼はその中でもっとも貧しい家に生まれた、少しも肉のつかない少女を気にしていた。少女は容姿においても突出して醜かった。しかし控えめで忍耐強く、誰よりもこの一家を思っていることを、屋敷に住む者たちはみな知っていた。少女を見初めた彼に周囲は納得し、他のどんなに華やかで優美な令嬢にも目をくれないそのストイックさを讃えさえもした。少女はとても信じられなかったが、彼はそれが恋だと信じた。何か物足りないのはまだ関係が成熟しきっていないからだと。

 彼はおそらく夫としてなしうるかぎりの気配りをした。少女もしだいに彼に愛されていることを疑わなくなった。少女の方もその思いやりにこたえるべく彼を愛し、彼に尽くした。二人は理想的な夫婦と言えた。しかしそれを彼だけは歓迎していなかった。それに気付いたとき、彼は全身の血液から温度がなくなっていく感覚を味わった。しかし、彼が少女の名前を呼び、少女が信頼しきった笑顔でそれにこたえるとき、彼の心の底で何かが少しずつひび割れていくのを、もう彼にはとめられなかった。
 
 天佑だったのだ、と彼は短いインターバルの間に思う。男と知り合って、彼はそれを知った。自分の欲望を。恋焦がれているものが何かを。

 男は遠慮がなく、容赦がなかった。だから彼は生まれて初めてほんとうの満足を知った。彼は同性愛者でも、マゾヒストでもない。ただ嬲られたかったのだ。彼が生まれつき、生きているだけで虐げ続けている者たちからの復讐を待っていたのだ。彼は自分をそう理解した。涙がこぼれた。男はそれを痛みのためだと誤解して、嘲笑を漏らした。

 彼はある日、男に金をやらなかった。男は怒った。彼はいつも十二分に金を支払うので、彼と会う日には持ち金を洗いざらい呑んでしまうのが常だった。これでは明日から食っていけない、と男が彼を睨むと、彼は殆ど原型の残っていない顔で、それでも優雅に微笑んだ。食べ物ならここにある、と。
 男はもちろん躊躇しなかった。最後に残った彼の顔はこのうえなく安らかなものだった。

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スロウ(A message floating in the amazing maze)

せいちゃんがいなくなって、思い出すのはリカちゃんのことだった。さりげなく火を差し出すタイミング、行儀のよくない客のいなしかた、くっきりと濃いメイク、いつまでも慣れないあたしと違ってリカちゃんはいつも完璧だった。そして口は悪いけどやさしかった。あたしがリカちゃんだったらハギオに捨てられることもなかっただろうか。

 せいちゃんがいなくなったことがこんなにかなしいのに、あたしの思考はハギオへ向かう。せいちゃん。優しいせいちゃん。大好きだ。本当の気持ちなのに、言い訳がましくなるのはどうしてだろう。

 あの日、テレビとベッドしかない部屋で、プレイステーションの格闘ゲームをしながら、妊娠した、とだけハギオに告げたあたしはいったいあの男にどんな言葉を期待していたと言うんだろう?ハギオはあまりに冷たい、あまりにハギオらしい返事をした。忘れない。その言葉、画面の中で無抵抗に殴られ続けるキャラクター、怒りもせず黙って泣き続けただけの自分。そして、未だにハギオへの依存から脱却できていない事実。こんなときはいつも、せいちゃんの頭を撫でて、ベランダに出る。煙草を吸う。せいちゃんがいない。あたしは嗚咽混じりにせいちゃんの名前を呼びながら、せいちゃんの置いて行った上着を抱きしめる。

 いつかハギオがあたしを追い返したとき、あの部屋で暮らしていた人。フライパンを持ち込み冷蔵庫を置き、生活感を根づかせることが出来た人。あたしが、ハギオと関係のあった女の子たちのなかでもっとも強烈に嫉妬した相手がリカちゃんだと知ったとき。リカちゃんでもハギオをつなぎとめることはできなかったのだと理解したとき。あたしの口は思いもよらないことを口走っていた。
「どうしてリカちゃんを嫌いになれるの」。
 つまりあたしにはリカちゃんへ浮かべるべきさまざまなどろどろした思いより、「もしあたしがリカちゃんだったら」という希望を摘み取られたことへの絶望が大きすぎたのだ。

 ギターを置いて行ったせいちゃんは、いずれ帰ってくるだろう。あたしはそれを信じられる。でもそれはあたしたちにとって前向きなことなんだろうか?そうでなくても構わないと、これがハギオなら断言できる、とまたあたしは思うのだった。

(南瓜とマヨネーズ)

A.N.Y

経験機械に足りないものを
ノージックは何と言ったっけ
たとえ何を聞かされていても
赤いカプセルが提示されれば
もう青は存在しないに等しい

素直に腹を立てるきみが好き

頭が悪いのにそれに我慢出来ない人間が嫌いなんだ
向上心じゃないかって?
そうだね
分からないきみが好き
ばかにしてないよ
わたしは性質として不純だから
死ねばいいと思ってる
常に、常にだよ
吐き気をこらえ続けている
でもわたしはわたしだから
見限れもしない、そこにまた
その循環

誰かがプラグを抜いてくれた後
わたしの魂が仮にその誰かに取り憑けたとして
わたしは何もしないと思う
感謝はしなくても、納得するから

沈めて
現実 非現実
手放しに信じられる段階は過ぎた
変わらないのは
きみが愛おしくて
わたしが疎ましい
ノージック
理解したわ

Water color

迷う時にはすでに
選択は済んでいる
後になって受け入れられずに
駄々をこねているだけ

そう 全部選んでいた
こうして腑抜けたまま
変らず死んでいくこと

フォルクスワーゲン・ニュービートル
ディズニーランドで揃えたネックレス
浜崎あゆみのアルバム
小豆色のユニフォーム
大事にするべきだったものは
わたしが手にしていたものは
あの部屋にあるどれでもなく

いい加減あどけないふりに自覚的にならないか
息が詰まるなんて言って
身体のどこも傷めず
健常で
健康に

それを
分かち合える、と
愚かな
ばかげた

ああ
気管、が、

壊して
これ、要らない
こわして

Stairway to the door

Heavy wet snow
Fine Chiristmas
Floating above something real
Or something insane

昔きみと観た映画の監督兄弟
いつのまにかその兄は姉になり
十二年ぶりに新しい映画を撮る
型遅れの人形だった女の子と

枠は無意味で
全て無限なら
刺しに来てくれませんか、いま
いつかわたしが向けたナイフで。
そういうことがあったっていい

雨の所為で
世界は滅びなかった
相手の居ないゲーム
逞しく生きたいと思うの、いつも
可笑しい
笑えない

扉に続く階段へ
雪より冷たい蝶を追う
あなたも孤独だって言う
嘘だ
いいえ
知ってる
そういうことじゃない

待っていたの
つまらない人に焦がれる日
太宰の気持ちがよく分かる
全部あなたに委ねる
きょうはそれに相応しい夜

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