忍者ブログ

may be May

頭の中のごみそうじです

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

忌明け

出の間と座敷は美しく片付き畳も真新しい緑色で、倍ほども広く感じました。
見覚えのないのれんがあちらこちらにかかっていました。
疲れ切った私はブラウスのまま二階の埃っぽいベッドの上で眠りました。
朝になってもろくに掃除を手伝うことなく、のろのろとジャケットを羽織り墓地に向かいました。
やかんに水を汲んだいとこたちと、骨壺を抱えた弟が「ごえんさん」を待っていました。
まもなく父が袈裟を着た「ごえんさん」を伴って歩いてきました。
先々月砕いたお骨を父が壺から出して墓石に納めました。

お経をいっしょに唱えているのはもちろん父くらいで、私は竹林の向こうを通る電車の音を数えていました。
叔母さんは一歩後ろに下がって手を合わせていました。
祖母がもうどこにもいない、というのは、やはりぴんときませんでした。

帰って、私はいちばんにぎやかなおばさんの相手をしていました。
おばさんは誰に対しても、叔母さんに対しても「ありがとうな」と丁寧にねぎらっていました。
おばさんと二人でいるとき、叔母さんは居間で談笑していました。
ありがとうな、と微笑んだ同じ柔らかいトーンで、「いまさら帰ってきても遅いけどなあ」とおばさんは零しました。

私は無邪気でいようと努めました。

例によって食欲がなく、仕出し弁当に口をつける気になれない私はせっせとウーロン茶を配りました。
さっさと食べ終わったいとこのひとりは煙草を吸っていました。
吸うんだ?と聞くと、吸いますよ、となぜか敬語で返されました。
彼の車のカーステレオからは聞いたことのない・聞くことのないたぐいの音楽が流れていました。
一緒にバドミントンをしていたころからの月日を思いました。

川の横にある変なすべりだいも、公園の遊具もそのままでした。
当時はのぼるのにコツが要った土管にはたやすく腰掛けることができました。
持ち主を喪った目の前の田んぼはもう耕されることはないのだろうかと思いました。
湖は凪いでいました。
桟橋の残骸が見えました。

PR

無題

昨日も日本酒とゼリーしか摂っていないのに
私は少しも痩せることがありません
無愛想なドクターがくれた薬はおそらく十分に効いていて
二度目の診察は五分で終りました
私はどうやらただ怠けているだけのようです

河原町行の阪急電車の中で開いていた小説は隠れキリシタンの死に様の記録でした
首を斬りあるいは火であぶるのでは美しすぎると危惧した幕府は、
できる限り見苦しく死ぬようにと彼らを穴につるすことにしました
見物衆も愛想を尽かすその数日。

向かいから子供たちの声が聞こえます
マルチトーカーノイズそのままの雑音として聞こえます
隣のマンションに帰り
いずれ百メートル先の小学校に通う
彼らの世界を思います

死ぬことはただの事実で
生きている間のどんなことも
それによって均されてしまうと知っています

あなたの退屈に花は咲いているのでしょうか
歯車はまだ見えません



副作用

 頭がずきずきし、胸がむかむかする。起き上がれなかったせいで背骨が痛い。

 三日後あたりに軽い頭痛と嘔吐感があるかもしれませんが、軽いし、三日ほどでおさまりますので。一昨日、作業のような問答を終えた初老のドクターはきっちり七日分のカプセルの入った袋を差し出した。
 「原因は何だと思いますか。」
 用意してこないと言葉に詰まる問いにも私の口はとっさに体をなす答えを用意しようとする、そしてそのそれっぽいフレーズをそのままメモするドクター、何がわかる、偽ってどうする、相手を自分を私はなじる、内心で。

 
 眠るのがもったいない、といつか夜中に笑った彼は昼間もずっと眠っているようになった。
 かなしくなって床に転がった。
 帰る。帰る?うん。帰る?帰る。
 私はひとりで階段を下り、廊下を突っ切って、小雨の大通りへ出る。
 玄関でキスをしなくなったことが、改札を通ってもわだかまる。

 「死にたいと思いますか。」
 ここへ来て、ノーと答える人がいるのか。

 
 課題に行き詰っている、という友達の相談に乗った。私がアドバイスする形になった。
 何度かそういうことがあった。
 何かの折に、お互い一浪で同い年だとわかり、彼女はほっとしたと言った。
 「年下に負けてるわけじゃなかった。」
 「教えられるばかりって苦しいじゃない。」  
 後者は私に向けられた言葉ではなかった。それでも私の顔はこわばった。

 ベランダでスミノフを開ける。
 怠惰な私、傲慢な私、醜い、重い、わずらわしい私。
 誰かと一緒に泣きたい。
 生きていてごめんなさい。

風の由来

君についてはもうゆるそう
わたしのことをもうゆるそう

正午を過ぎて目を閉じた
きょうも繰り返した
繰り返した、きょうを

わたしの塗った青い髪
あの子の書いた青い歌

幼いままの
屈託のない笑顔
奥行きのないすがた

遠くないその時が来たら
その手に縊られるゆめの中で

きょうも東側の窓の外
水面はきらきらと凪いで
南へ
君が眠っているだろう街へ

もくようび

 なんでもいいんだ、たいせつなのは曝すことだから。叩いて矯めて潰して揃えて消して、その過程に貪欲にならないといけない。なんでもいいんだ、それがかなう環境なら。どこでもいい。ここじゃなくていい。
 もえるごみを出し終わり、もらいものの黄色いマグカップ、ペパーミントティー。ティファールの電気ポットで、お湯は焦げそうなほど熱く煮える。閉め切った窓越し、こどもたちの声。開けるとさすがに騒々しい。枕を縦にして壁際に置き、もたれかかる。濃い青のハードカバー。ホットケーキを食べにいこうか。私は自分がそうしないのを知っている。
 消えてしまいたいなあ。
 それは簡便だけれど正しくない。しっくりくる語彙を求めてページを手繰る、手繰る。
 ドッジボールがしたい。仮面をつけて自己紹介もせずにいい大人が寄り集まって。バドミントンでもテニスでもいい。男女もごちゃごちゃでいい、手加減しないでいいならなんでも。
 ドイツに住みたいって言ったり、キョウトに帰りたいって言ったり、そういうの、真に受けないでくれたらいい。
 きょうはまっさらな一日で、昨日とも明日とも無関係で、それで何が困るのだろう。
 3階から飛び降りても知れているけれど(いま読み終わった小説の女の子は4階からでも助かった)、シンクの下にしまってある包丁は私の腕をざっくり切るには十分すぎる。
 生きて、いるんですね、あなたもわたしも。いま、このとき。死にたい。まさか。でも、死にたい。
 死ぬ前にしたいこと?
 もう、ないよ。もう叶ってしまったし、叶っていない分はもう永遠にうしなわれてしまった。
 ない。
 ない。
 何もない。
 思考が中学生だ。
 たぶんそのあたりで成長し損ねたままなんだろう。
 知らない。
 耐えがたい。
 Coccoを聞く。

カレンダー

11 2024/12 01
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

フリーエリア

最新コメント

最新記事

(11/27)
(11/25)
(11/23)
(11/20)
(11/18)

プロフィール

HN:
とるて
性別:
非公開

バーコード

ブログ内検索

最古記事

P R

忍者アナライズ