脈打つ間隔で痛みがめぐる。右手から血が滴っている。誓って、わたしは猟奇的な映像も物語も好まない。それでも夢はそこから始まる。真っ白な空間に、砕けたガラスと赤色が散る。白いワンピースを来たわたしは膝を抱えている。言い訳を考えている。いつもそうしてきたように。
思い浮かんだ名前を呼んだ。夢だから、それに応えてあらわれた。子どもの姿だった。子どもは、いまは誰にも呼ばれなくなった名前を、もう少しも思い出せない声できちんと発音した。涙が出た。子どもは全く頓着せずに器用に包帯を巻いた。
「破片が血管をめぐって忘れたころに心臓を突いてくれないかしら」
口の中でつぶやいたはずの言葉は子どもに伝わっていたらしい。
「思ってもいないくせに」
冷ややか極まりない声で言い、顔を上げれば屈託なく笑う。大丈夫だよ、おまえがろくでもない人間なのは知っているから、憶えているから。そうね、わたしはそう信じていればいい。でも、どんどんおぼろげになっていってしまうの。感触を忘れた。声を忘れた。顔もあやしい。名前もそのうち消え失せてしまう。
子どもは破片を吟味している。悪夢の中で、やっとわたしの夢がかなう。